民法:親族法⑮嫡出の承認
こんにちは。行政書士の小幡です。前回まで、嫡出の否認について条文を確認してまいりました。今日は嫡出の承認。つまり否認の反対ですね。「誰の子どもか」という問題に対して認めない否認に対して認めるという「承認」しかし、そんなに単純な構図ではないのですね。少し確認してみましょう。
まずは、いつもの如く、条文から。
(嫡出の承認)
第七百七十六条 父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、それぞれその否認権を失う。
これだけを読んでみると「当たり前」ではないか、、、と思いますよね。「小幡、わざわざブログのネタにしてネタ枯れを回避したな。」と思われそうです。まあ、ネタ枯れを恐れているのは事実ですが、今回はそんなセコイ料簡ではありませんよ。
この規定は、夫が自分の子であることを一度認めた(承認した)場合、後から「嫡出否認の訴え」を起こして親子関係を否定することはできなくなるというルールです。
- 嫡出(ちゃくしゅつ)とは: 婚姻関係にある夫婦の間に生まれることを指します。
- 否認権の喪失: 夫が「この子は自分の子である」という意思表示を(明示的・黙示的にかかわらず)行った場合、法的安定性を守るため、後から前言を翻して親子関係を争うことは許されません。
- 承認の方法: 出生届への署名・捺印、子の養育、周囲への紹介などがこれに該当します。
2024年4月1日の改正民法施行により、嫡出推定に関する規定(772条など)が大きく見直されましたが、この776条の「承認による否認権の喪失」という原則自体は維持されています。 つまり、出生届の押印のみならず、実際に育てている、周囲に紹介しているだけでも否認権を喪失していることになるのです。
ここから、「嫡出の承認=が親子関係と相続権の確定」に結びつきます。
相続の手続きを進める中で、戸籍を調べていくと疑義が生じる可能性もあります。しかし、法律には「一度認めたら、もう否定できない」という強力なルールが存在します。まあ、ちゃぶ台返しは困りますからね。もちろん、法律家の端くれとしては、戸籍に記載されている内容を事実として扱います。それが、民法776条(嫡出の承認)です。今回は、この条文が相続に与える影響と、重要な判例について解説します。
「嫡出(ちゃくしゅつ)」とは、婚姻関係にある夫婦の間に生まれることを指します。通常、妻が婚姻中に妊娠した子は夫の子と推定されます(嫡出推定:772条)。これは先日まとめましたよね。
もし夫が「自分の子ではない」と考えた場合、「嫡出否認の訴え」を起こす(774条)ことができますが、一度でも自分の子だと認めてしまう(承認する)と、二度とそれを覆すことはできないというのがこの規定の趣旨です。一旦○と言ったものを✖と言う事は出来ないのです。
さて、ではどのような行為が「承認」に当たるのでしょうか。
実務上、最も代表的なのは「出生届への署名・捺印」です。それ以外にも、以下のような行為が承認とみなされる可能性があります。
- 子に自分の姓を名乗らせ、長年養育する。
- 親族や知人に対し、自分の子として紹介する。
一度これらを行うと、後からDNA鑑定で血縁関係がないと判明したとしても、法律上の父子関係を否定できなくなります。
なぜこの規定が相続で重要になるのでしょうか。それは、「相続権の有無」が法律上の親子関係に直結するからです。例えば、夫が亡くなり相続が発生した際、他の相続人(夫の兄弟など)が「あの子は血がつながっていないから相続人ではない」と主張したとします。しかし、生前に夫がその子を嫡出子として承認していれば、夫自身にすら否認権がない以上、第三者である親族がその親子関係を争うことは極めて困難になります。
つまり、776条は「子の法的地位の安定」を守り、ひいては相続における混乱を未然に防ぐ役割を果たしています。最後に776条に関する有名な判例を紹介します。
- 事案の概要:
夫が、自分の子ではないと知りながら、妻に懇願されて出生届を提出しました。その後、夫は変心し、嫡出否認の訴えを起こしました。 - 裁判所の判断:
最高裁は、「夫が自分の子ではないと知りながら出生届を出した場合でも、それは『承認』に当たり、否認権は失われる」と判断しました。 - ポイント:
「真実を知っていたかどうか」は関係ありません。「自分の子として扱う」という外形的な意思表示があれば、法的責任が生じるという厳しい姿勢が示されています。
民法776条は、一見シンプルな条文ですが、相続においては「誰が真の相続人か」を確定させる強力な防波堤となります。「血縁がない」ことと「法律上の親子ではない」ことは別問題です。相続トラブルを防ぐためには、血縁の有無だけでなく、生前にどのような届出や交流(承認行為)があったかを正確に把握することが重要です。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
